水やりの記録

本や映画などの感想です。自分に水をあげましょう。

加藤陽子他『別冊NHK100分de名著 フェミニズム』

  • 4名の論客がフェミニズムに関する4つの名著を紹介するという構成。
  • 加藤陽子氏が論じている、伊藤野枝が直面した労働者階級とのつながれなさは、今も続く課題であり、同じ階層同士でつながる「横の旅」ではなく、階層・イデオロギーを超えた「縦の旅」が必要との指摘。
  • 女工に叱られて萎縮した野枝に対する、上間陽子氏の「そこからなんだけどな」という指摘に考えさせられた。ぶつかることのしんどさをどう乗り越えて連帯できるのか。衝突を過度に避けるこの時代に、「そこから」を紡いでいくことの難しさ。でも、その先にしか未来はないんだろうな。
  • また、同じく上間氏によるハーマン『心的外傷と回復』の解説と、彼女が運営する若年女性の出産・子育てのためのシェルター「おにわ」での実践も興味深かった。大きな選択の前に、どんなカミソリが好きか、飲み物に氷を入れるのが好きかどうか、といった小さな選択をする経験を積み重ねていくことで、徐々に自分の人生の舵手であることを取り戻していけるとのこと。
  • そうした感覚を持つことは、辛い経験をしたサバイバーはもちろん、女性全般についても同様に重要なのかも、と思った。伊藤野枝が言うところの「不覚な違算」(想定外の結果に直面して思い通りの結果にならないこと)に囲まれている女性だからこそ、自分の人生の主導権は自分が握るんだ、ということにより意識的になる必要がある、では、どうすればそうした意識が持てるのか、というのはまた別の問題だけれども。