- 1巻からちびちびと読み進めてきたけど、今までで一番司馬さんが楽しそうだった。モンゴル語を大学で学ぶほどだし、本当に憧れの地だったんだろうな。
- この時代、モンゴルにはソ連を経由しないと行けなかったらしく、いろんなトラブル続きでモンゴルに無事辿り着けるのかとハラハラした。まさか領事館の運転手さんがビザを出してくれるなんて。そんなウルトラCがありえたゆるやかな時代。
シベリアの先住民についても知らないことばかりで勉強になった。当たり前だけど、コサック以前からいろんな人々が住んでいたんだよなあ。歴史として残っていないだけで。大文明だけが人類のすべてではないということ。
歴史は古代に大文明を築いた民族のために頁を割きすぎているようだが、この寒冷地で太古以来の採集生活を守りつつ生きぬいてきたシベリアの少数民族もまた褒辞を受ける資格があるのではないか。(「ボストーク・ホテル」より)
モンゴルについてからは、とにかく美しい描写がたくさん。特にゴビ草原に咲き誇る「ゴビン・ハタン(ゴビの妻)」という名の花についての以下の一節がすてき。これを体験するためだけにでもゴビに行ってみたくなる。
靴の裏が、ゴビ草原にくっついたとき、おどろくべきことは、大地が淡い香水をふりまいたように薫っていることだった。風はなく、天が高く、天の一角にようやく茜がさしはじめた雲が浮かんでいる。その雲まで薫っているのではないかと思えるほどに、匂いが満ちていた。(「ゴビ草原」より)