水やりの記録

本や映画などの感想です。自分に水をあげましょう。

額賀美紗子,藤田結子『働く母親と階層化』

 

要旨

 子育てしながら働く母親が仕事・子育て・家事にどのような意味づけや対処をしているのかという点について、ヒアリング調査をもとに、雇用形態や階層差に着目して分析したもの。

 働きながら子育てする女性たちは、あからさまな母性イデオロギーに抗い、仕事と母親業を「織り合わせる」戦略をさまざまな形で実践しているが、その際にとりうる方略の選択肢は大卒女性に対して非大卒女性で圧倒的に不足している。

 非大卒女性の場合、生計維持分担意識が高く、キャリア志向であっても、夫のサポートが少ない。また、職場環境も大卒女性に比べると厳しい状況におかれており、大卒女性がとる「子ども優先・仕事セーブ」の戦略がとりづらい。家事や家庭教育についても、非大卒女性の負担の重さと選択肢の少なさは顕著である。

 こうした状況をふまえると、子どものケア責任を女性にのみ押し付けない「共育て・共育ち」社会の推進、就学前機関へのアクセスと質保証、採用における差別排除や同一労働・同一賃金、非正規雇用から正規雇用への転換等の雇用政策と職場環境の改善、個人レベルでのジェンダー平等教育、栄養のある食事の提供・食事の社会化等の政策が必要である。

感想

  • 母親規範を相対化し、自分の意識を仕事や自己啓発に傾けている女性は少数派であり、多くの女性は母性イデオロギーの強い影響下で就業意欲を挫かれているとのこと。確かに、母親が自分のことに時間を使う(それが仕事であったとしても)ことへの罪悪感の強さは常々感じるところ。一方で、どういった人たちが規範の相対化に成功しているのかが気になった。一昔前のバリキャリ女性像が否定されるなかで、より相対化は難しくなってしまっているのでは。

  • 一般に男性の家事育児時間が少ないのは長時間労働が理由とされるが、帰宅時間が早くても家事育児を分担しないケースもみられ、この背景には、夫が思惑通りに妻にケア労働を任せたいという「支配の志向」があるのではないかという指摘。どれだけ男性の労働時間が減ったとしても、そもそものジェンダー平等に関する価値観がなければ、女性がケア役割を担う傾向は変わらないということか。

  • 先行研究では、日本の既婚女性は「家計補助のため」に外で働くと解釈されてきたが、本調査では、とくに大卒女性と専門卒女性に生計維持分担意識が高く、キャリアとして自分の職業をとらえる傾向がみられたとのこと。専門学校って、短大とあわせて残余カテゴリとして扱われがちだけど、女性にとっては大きな意味があるのではという示唆。おそらく国家資格と直結しているからとのことで、逆に、大卒女性と専門卒女性の違いはどんなところにあるのか気になった。

  • 食事づくりの負担について、非正規・専業主婦の女性の場合、手作り規範を相対化しにくい傾向や、ひとり親世帯の場合経済的に外部化が難しかったり、分担してくれる者がいないという課題があるため、食育運動で手作りに関する情報を与えるよりも、広く安価で栄養価の高い食事を提供する具体的な施策や機会、食事の外部化・社会化が必要であるとの主張。これには激しく同意。子ども食堂だって、「おうちで食べられないからしかたなく」みたいな側面が強い。そもそも、夜の食事を外ですることが当たり前になったっていいじゃないか。食育的なものへのアンチ、積極的に唱えていきたい。