水やりの記録

本や映画などの感想です。自分に水をあげましょう。

西研『ニーチェ:ツァラトゥストラ(NHK 100分de名著ブックス)』

 

 

  • NHKオンデマンドで「100分de名著」のニーチェの回を見て、おもしろかったのでテキストも読んでみました。聞いたことはあるけれども意味はよくわかっていなかったニーチェの思想について、おぼろげながらエッセンスを理解できた気がします。神という絶対的な価値を失い、それでも辛い世の中を生きていくためには、柱となりうる思想だと感じました。
  • 有名な「永遠回帰」について、人生のどんな苦しみもそのまま巡ってくることを受け入れなければならないと考えると、なんて厳しい思想なんだと感じるけれども、「たった一度でも魂がふるえるほどの悦びがあるならば、その人生は生きるに値する」ということに重点をおいて理解をするならば、逆に究極のポジティブ思考であるようにも思います。
  • ただ、そうした悦びが見いだせないほどの絶望にある人にとっては、孤独の中でその悦びを思い出せといわれても、さらに絶望を深めてしまうように思われます。西氏の提唱するように、人とのかかわりの中で自分の悦びが何かを見出し、前に進んでいくということが重要なのだと思います。
  • また、この思想が行き過ぎると、社会を批判すること=ルサンチマンを克服できていないこと、とみなされ、社会構造に対する批判が成り立たなくなってしまう危険も感じました。ニーチェルサンチマンを受け止められないときはそれを認めて呪って叫ぶほうがよい、としているそうですが、ルサンチマンの種類によっては個人的な克服を目指すのではなく、その社会構造自体の変革を志向すべきではないでしょうか。それがヘーゲルのいう社会的な問い、ということになるのかもしれません。第1章でも述べられているように、ニーチェ的実存派とヘーゲル的社会派は対立するものではなく、連続的なものととらえることが必要ということなのでしょう。